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lunedì 7 marzo 2022

上村一夫 - 『怨霊十三夜』

 

上村一夫の惡の華:性、怒り、復讐。日いづる国より。

(ラ・レプッブリカ20211223日)


エロス、暴力、死、美に文学的原点を有する日本の巨匠上村一夫の傑作『怨霊十三夜』の年代順完全版がイタリアで世界初出版される。【ルカ・ヴァルトルタ】

 

「死んでいた朝に 海鳴りが哭く いのちの渚を行く女 涙はとうに捨てました 怨流の道を行く女 心はとうに捨てました」(『修羅雪姫』より)

 

上村一夫の復讐物語は1972年の『修羅雪姫』がLady Snowbloodと言うタイトルで翻訳されたように遥か遠くに発する。上村の重要性は藤田敏八による同名作品の映画化(1973)、続く1974年の『修羅雪姫 怨み恋歌』(Lady Snowblood2‐Love Song of Vengence)に影響を与えたのみでなく、クエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』2作品にインスピレーションを与えたことを考るだけでも十分に理解できる。

主要な日本人作家、小池一夫(主を持たない侍、拝一刀の物語『子連れ狼』はイタリアでもテレビ放送された)によって書かれたこの過酷な物語は、上村の武器である描写スタイルを研ぎ澄ませ、後の傑作『同棲時代』『しなの川』に引き継がれた。特に『怨霊十三夜』は全てが雑誌発表された正確な年代順に収録されており、このイタリア語版が世界発の出版となる記念碑的作品である。上村の作品が初掲載された『週刊漫画TIMES』が収蔵されている国立国会図書館で長期間にわたる研究をした監修・翻訳のパオロ・ラ・マルカ氏による功績が大きい。


 殺人を犯し投獄されたある女の物語『修羅雪姫』に話をもどそう。殺した男はかつて自らの夫と息子を殺し、3人の共犯者たちと共に自分を犯した相手だ。この生き残った3人への復讐を託す子を身ごもるために、獄中で可能な限りあらゆる男と関係を持つ。ところが娘修羅雪の出産後に自らは死ぬことになる。白雪の美しさを湛えるという名と復讐の鬼神と化した修羅とが関連付けられているのだ。この関連付けはとても蘊蓄に富んでいる。修羅(イタリア語で鬼神、悪魔)というのは格調高き無頼派作家、石川淳(1899‐1987)の著書の『修羅』であり、権力の宿敵として女鬼神胡摩が登場する。

この事によりこの13話の女主人公達がどのような人物であるかがより理解できる。時には犠牲者であり、悪魔であり、はたまた男へ、女へ、彼女達の死の因縁である愛人達への熟しきった怨念の復讐の執行者となる物語の中で。しかし上村自身による関連付けはもとより、そのルーツはより深く日本文学の古典中の古典、マリア・テレーザ・オルシ氏10年にわたる作業を経て翻訳された『源氏物語』(La storia di Genji, Einaudi) (2012刊。訳者注)にまでさかのぼる。11世紀に女性作家、紫式部によって書かれたのだが、同時代における西洋の女性をとりまく環境を考えればまさに驚嘆すべき事実である。

高貴な家柄の貴婦人である六条の御息所は源氏との逢瀬も遠のいた頃、自身を消耗させながらも死を招く怨霊となって源氏の新たな愛人達への嫉妬と怨念を抱くようになる。たとえ六条の御息所には悪意はなくとも苦しみの否定的側面が彼女の全影響力と共に露わになってしまう。怨念は人を殺すのだ。



上村のこの13話の第一話は『四谷怪談』を先見性に富んだ方法で再び物語ったものである。葛飾北斎や歌川国芳の浮世絵、歌舞伎の演目、そして今日では海外のジャパニーズホラーの復活を記した映画『リング』『呪怨』などにもインスピレーションを与えた有名な怪談である。池に落ちる石や提灯を揺らす風、視線の駆け引き、悪しき伊右衛門をむさぼり喰うネズミの恐ろしさなど、心を揺さぶるような美しいシーンで暗闇に差し込む光にいたるまで、上村作品のなかでは躍動的な素描と観想的な瞬間とが交互に入れ替わるのだ。

第二話『おきせの乳房』に見える象徴的な手法は、葛飾北斎の浮世絵を官能的な暗示として引用した点であり最高水準に達している。そして鷹(おきせの愛人となる狩人の隠喩)がキツツキ(敗北に終わる絵師の旦那であり、ここでは嫉妬によって自らを消耗させる男)を攻撃する描写においても同じくである。

第三話『津軽惨絃歌』では典型的な義理人情の葛藤を描いている。主人公である男性が盲目の女性三味線奏者を捨てて共同体への服従を選んだために、女性が悲惨な処罰を受けるが、この場合でも復讐は村の男たちを執拗に追いかける。

他の要素で上村とは切っても切り離せないのは花と蛇、既存の秩序を危機的状況に陥らせる、言うなれば美であり、性の野性的な力がそれである。井原西鶴(『好色一代女』)から溝口健二(上田秋成原作『雨月物語』)へ、そして大島渚(『愛のコリーダ』)へと、 日本文化を広くまたぐテーマである。権力は女性が怖いのだ。そしてこれは日本に限ったことではないのである。  

『怨霊十三夜』のボックスセット


Originally published in Italy on "Robinson" - "La Repubblica" (23/12/2021)

Link: La Repubblica

Written by Luca Valtorta.

Translated by Kawato Makiko.


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